とりで法律事務所(東京港区北青山 外苑前駅)・ブログ

事例紹介・税理士契約書の内容(契約書の条項が一因となって契約締結に至らなかったケース)

2025年03月27日 17:43

1 事例

A社は、新たに顧問税理士になってくれる税理士を探していたところ、B税理士と知り合い意気投合し、B税理士に、税務相談や申告書類作成等の税務対応を依頼することにしました。そこで、B税理士から、税理士顧問契約書が交付されました。


A社(の担当者)が、当事務所に相談されて、A社担当者と当職で税理士顧問契約書を確認してみたところ、損害賠償に関する規定で、B税理士の「業務の遂行に故意又は重過失があった場合」に限り損害賠償責任を負う(=通常の過失の場合は責任を負わない)とするもので、さらに、損害賠償額の上限を1年間の報酬金額と記載されており、B税理士の損害賠償責任の範囲に広く制限が付されていました。

なお、この点について、このような規定になっている理由は、B税理士から特段の説明はありませんでした。


また、依頼する業務範囲について、口頭ベースでは契約後お願いすることになっていた業務の一部について、契約書や別紙書面に記載がありませんでした。

その後、B税理士の言動なども相まって、A社は、B税理士と契約後トラブルなくやっていけるのだろうか、と懸念を抱くようになったため、B税理士に依頼することを断念しました。(結果、C税理士に依頼することになりました。)

2 検討

上記は、税理士契約書の記載について、税理士側に一方的に有利なことが一因となって、税理士への依頼を断念した事例です。


⑴税理士の側から見ると、確かに、取引の規模や内容から想定される税理士の損害賠償リスクを念頭に、契約書でそれを回避すること自体は検討されるべきではあるものの、度を越えて一方的に不利な条項を含む場合、顧客からの信頼を損なう可能性があるため、注意が必要です。

(それでも信頼してくれる者と契約できればよいというのも、一つの考え方といえなくはありませんが。)

専門性を含め業務内容に応じて適切にリスク分配をすることが重要であって、取引を行うにあたっては、税理士が専門家として責任を負っていることや双方の公平性をも意識して契約書を作成しないと、公序良俗等により当該条項の無効等を主張される懸念があるだけでなく、契約条項の内容から、顧客から誠実さに疑念を持たれる可能性があります。


単に、一方に有利な契約内容にしておけば問題ない、ということではなく、かえって顧客(見込み客)の信頼を得られず、不意に取引の機会を失うこともないとは言えません。


特に、税理士の損害賠償責任を制限する場合には、なぜこの内容で制限するのか、制限の内容や理由を顧客に説明し、理解してもらうことが重要です(しっかりと説明を尽くすということはこの部分に限らず、契約全体についても同様です)。

また、業務内容と報酬の対応関係について抜け漏れや不明確さがないように、契約書類に明記しておくべきです(税理士の責任の範囲にも関わる事柄です)。


税理士先生ご自身で契約書を作成される場合であっても、過度に有利になっていないかどうかなど契約書の内容に懸念がないか(また、雛形を使って作成された場合に、自身の業務に合った内容なのか)、弁護士に相談されて、セカンドオピニオン的にその内容を見てもらうと言うことも一つの方法でしょう。



⑵顧客側から見た場合に、税理士先生の契約書だから大丈夫だろう、ということではなく、やはり、契約前に契約書は一通り確認されておかれるのがよいです。なお、契約書の内容をご自身で把握することが難しい場合には、弁護士に相談されてみてもらうことも一つの方法です。


契約書の条項において、取引内容がきちんと反映されているか、不当に不利な内容が含まれていないか確認することが重要なのはもちろんのこと、契約書の記載一つ見ても、税理士の考え方・スタンスが見えますし、契約書作成の過程で対話をすることで、本当に信頼できる税理士先生なのか見極めることにもつながります。


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