賃貸人・管理会社から賃料の値上げを求められた場合の対応(マンション・オフィス・店舗など)
2025年03月28日 14:44
昨今、固定資産税の増加や家賃相場の変動を理由に、賃貸人や管理会社から、アパート・マンションやビル、店舗物件など、賃貸借契約の更新時期のタイミングで賃料の値上げを打診されることが増えてきているようです。
この場合、賃貸人や管理会社のいうとおり、値上げに応じなければならないのか、また、値上げに応じない場合には、契約期間とともにすぐに物件を退去しなければならないのではないか、と困惑して、当事務所に相談される賃借人も少なくありません。
1 前提
物件の賃料の値上げ・値下げについては、当事者間で協議(話合い)によって決めるのが原則です。
基本的には、当事者の合意が必要(賃料増額請求調停・訴訟に関しては後述。)で、賃貸人が、賃借人の承諾なく、一方的に賃料の値上げを決めることはできません。
2 賃料値上げに関する考慮事情(賃料増減額請求の要件)
賃料の値上げに応じるべきかどうか、その考慮要素としては、賃料増減額請求権を定めた借地借家法32条1項本文の条文に規定された、
「建物の借賃が、土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となった」(かどうか)
という要件が充たされるかどうかを検討されることになります。
そのため、賃料値上げをいわれた場合、まずは、賃貸人・管理会社に対して、上記考慮要素に関する値上げ額の根拠資料を求めて提供してもらい、また、賃借人側でも、まずは、同じ建物も含む近隣の類似物件の賃料相場等について調べた上で、値上げに応じるべきか、また、値上げに応じる場合でも、(賃貸人からの増額請求が過大である可能性も少なくないため)値上げの金額の妥当性について検討し、交渉・協議することになります。
この点に関し、単純に近隣の家賃相場との比較をするのではなく、賃貸借契約が締結された経緯やその後の賃料改定の経緯なども考慮されるべきです。その他、賃貸借契約書に賃料の不増額(同条但書)や自動改定に関する特約がないかどうかなども確認しておくことが重要です。
3 契約更新・退去との関係(値上げに応じない場合に、退去しなければならないか?)
ご相談でよくある質問が、
賃貸人のいうように賃料の値上げに応じないと契約の更新ができず退去しなければならないのか?
というものです。
ケースによっては、賃貸人・管理会社が、値上げに応じるか・退去か、ということを暗に示唆する形で説明をしてくることがあります。
しかし、賃貸人からの更新拒絶は、①契約期間満了の1年前から6か月前の間に賃借人に対して更新しないという内容の通知をすること(借地借家法26条1項)が必要であり、②①の通知をした場合でも、「正当の事由があると認められる場合」(例えば、建物の老朽化など。また、多くの場合、立ち退きのために立退料を支払うことが必要になります。)でなければできず(同法28条)、賃借人保護の観点から、賃貸人にとって、厳しい要件を課されています。
そのため、普通賃貸借契約において、賃料値上げに応じず、かつ、更新について合意が成立しなくても(更新時の書面の取り交わしがない場合でも)、法定更新により賃貸借契約が従前の賃料額のまま更新されることになります。
そのため、(定期賃貸借契約ではなく)普通賃貸借契約の場合、値上げと期間満了に伴う退去の二択という前提は誤り、ということになります。
4 協議が整わなかった場合(調停、訴訟)
⑴ 物件の賃料値上げに関する協議が調わない場合、賃料の値上げをしようとするためには、賃貸人は、民事訴訟の前に、原則として簡易裁判所に調停(民事調停)の申立てをすることを要します(調停前置主義)。
民事調停では、裁判官と調停委員で構成された調停委員会が当事者の間に入り、協議が進められます。不動産鑑定士の調停委員から客観的な意見が示されることで、協議がまとまることも少なくありません。
民事調停が不調に終わった場合、賃貸人の側から、賃料増額請求訴訟を提起することになります。
賃借人としては、現在の賃料を改定する必要がないことを鑑定書等の資料をもとに反論することになります。
⑵ 賃料増額請求を受けた賃借人は、増額を正当とする裁判が確定するまでは、相当と認める額の建物賃料(=基本的には、これまでの賃料)を支払うことをもって足ります(借地借家法32条2項本文)。
なお、この間に、もし賃貸人から従前賃料の受領を拒絶された際には、供託することで債務不履行(家賃滞納)責任を免れることができます。
そして、その裁判が確定して賃料の増額が認められた場合、増額請求の意思表示がなされた以後の賃料について、増額後の賃料と、既に支払った従前賃料の額との差額(不足額)があるときは、その不足額に年10%の利息を付して賃貸人に支払わなければなりません(同項但書)。
なお、調停や和解で賃料値上げに応じる場合、事案によっては、協議の結果、この利息分までは支払わない形で調停・和解がまとまることもあります。
⑶ 上記のように、当事者間の協議が整わず調停・訴訟まで行う場合には、多くの費用(鑑定書作成料や弁護士費用など)や時間がかかることから、賃借人としては、当事者間の協議の段階から、賃貸人が法的措置も厭わないのかなど、賃貸人がどこまで本気で賃料値上げを考えているのかも検討材料にされるとよいでしょう。このような賃貸人の意向を推測して、対案を出すことも考えられます。
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