レベニューシェア型(受託者への報酬を成果物から生じた収益から支払う方式)のWEB制作等契約書作成におけるポイント
2025年02月09日 15:36
【事例】
A社は、自社のWEBサービスを立ち上げることになったため、WEB制作を行うB社に、自社のWEBサービスの開発や運用を依頼することになりました。
A社の懸念としては、初期投資としてかけられる費用があまり多くないことやWEBサービスが立ち上げ後すぐに収益化できるか一抹の不安がありました。
一方、B社は、A社からの話を聞いて、対象となるWEBサービスに成功の可能性を感じるとともに、長期にA社と関わって応援したいという思いを抱き、また、B社としても、自社の開発実績件数を増やしたいという意向などもありました。
そこで、契約に関する協議の結果、WEBサービスの開発の対価であるB社への報酬は、開発したサービスの収益の一定割合から、いわゆるレベニューシェアで支払うことになりました。
そして、正式な契約締結のため、レベニューシェアを内容に含むWEB制作についての契約書を作成することになりましたが、どのような点に気を付けて契約書を作成すればよいか分からず悩んでいました。
【解説】
1 そもそもレベニューシェアとは?
「レベニューシェア」とは、上記の例ではWEBサービスで生じた収益といった、事業による収益を、発注者と受注者で、あらかじめ定められた割合で分配する方法を指します。
2 発注者にとっての主なメリット・デメリット
メリット
・初期費用が発生せず、初期のリスクが抑えられる
・サービス成功により報酬額が増えるため、受注者側のモチベーションアップにつながる場合がある
デメリット
・対象となるサービスないしビジネスが成功した場合に、受注者に長期的に高額報酬を支払う必要がある
・開発内容や条件面で都度合意をとって進める必要があり、意思決定のスピードが遅くなりがち
3 受注者にとっての主なメリット・デメリット
メリット
・契約時や完成時の固定報酬を受け取らない分、発注者側に受け入れられやすく、案件の受注を取りやすい面がある
・サービスの収益が発生してからは定期的な収入になるほか、開発したサービスが成功した場合、長期的にみて、固定報酬よりも受取報酬が大きくなりやすい
デメリット
・サービスが成功するまでは収益を得られず(=回収に時間がかかる)、失敗した場合に少ない報酬しか受けられなくなる。
・最悪の場合、初期投資(開発にかけた時間・費用等)の負担が全て無駄になってしまうリスクがある。
受注者側にとっては、固定報酬の場合よりも、成功すれば見返りが大きくなることが期待できる分、失敗した時の機会損失が大きいので、その案件が本当に成功するのか、ビジネスモデルなどを含めて慎重にリスク分析をして、案件をレベニューシェアで受けるかどうか判断することが重要です。
4 レベニューシェア型の契約書を作成される際の注意点
⑴ レベニューシェアの対象
レベニューシェアの対象となる目的物や業務をきちんと契約書で明確にする必要があります。
受託した開発案件で、どの目的物がレベニューシェアの対象になるのかならないのかで、報酬額が大きく変わる可能性があるので、この点で揉めるケースが少なくなく、あらかじめ契約書に記載して特定しておく(追加する場合には都度明確に定める)ことが重要です。
⑵ 報酬の計算
第三者が条項を読んでも疑義が生じないような、明確な計算結果が分かる文言で計算方法を記入することが重要です。
ここで、よくありがちなのが、契約上(契約書上)、一定割合を乗じる対象が「売上」(売上×~%)なのか「利益」(利益×~%)なのか、さらには、「売上」や「利益」の内容(最終的な利益なのか、営業利益なのか等、対象の計算の仕方)が明確になっておらず、報酬の計算で揉めることです。
※契約書作成の際に、契約書雛形を活用されるケースも少なくありませんが、上記の通り、一概に「売上」「利益」と言っても意味が(大きく)異なる場合があり、使用する雛形の「売上」「利益」に関する記載が、当該取引の内容と全く同一であるとは限りませんので、雛形を使用される場合には、特にその点に注意し、必要に応じて修正するようにしてください。
また、収益の計上のタイミングについても、注文時なのか実際に入金された時なのか、サービスによっては問題になり得るので、明記しておくべきでしょう。
この他、報酬の対象には消費税を含むのかどうかなど、契約書に協議し決定した内容を具体的に明記しておくことが重要です。
⑶ 契約期間
レベニューシェア型の場合、報酬が契約期間の短期・長期により変わってくる可能性があるので、契約期間も明確に定めておく必要があります。
⑷ 費用
サーバー代等の開発にかかる費用について、どちらが負担するか等、契約書で明らかにしておきましょう。
⑸ 業務内容及び役割分担
当事者の両方が業務を行う場合などにおいて、当事者のどちらが何の業務を行う(義務を負う)のか、双方の業務内容を明記しておくこと(特に受託者の業務範囲)が、業務範囲についてトラブルを回避するために重要です。
また、受注者の報酬をレベニューシェアとする場合、契約で定めておかない限り、一般的には、制作物の追加や修正をしても、(報酬が収益から生じると定めていることから)発注者が追加報酬等を負担しないことになるケースが多いので、特に受注者側は、制作物の仕様を含む業務範囲や追加報酬等が発生する条件を明確に定めておくべきです。
⑹ その他、通常のWEB制作に関する契約書と同様に、成果物に関する事柄、著作権を含む知的財産権の取扱い、契約終了時の対応、損害賠償、違約金などの規定を、必要に応じて明確に定めておくことが重要です。
【その後】
A社は、弁護士の法律相談を受けて、弁護士から、報酬の定め方などレベニューシェア型の契約について、個別事情をもとにした取引上のアドバイスを受けた上で、その弁護士にレベニューシェアを含むWEB制作等契約書の作成を依頼しました。
そして、出来上がった契約書をB社にも確認してもらい、細かい文言等の修正をして、無事契約書の作成をすることができ、WEBサービスの開発をスタートすることになりました。
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レベニューシェア型の契約は、発注者側にとって、初期投資の必要がない分、取り組みやすい契約の仕方だと言えますが、上記メリット・デメリットの他、契約書の記載が明確になっていない場合に、報酬の計算等で揉める原因になってしまいます。
契約書の記載が原因となるトラブルは、契約の段階であらかじめ回避できる場合も少なくありません。
契約時までにしっかりと契約書の記載に問題がないか確認しておくことが重要です。
当事務所では、上記のようなWEB制作関連の契約書作成などに対応しておりますので、ご相談・依頼をご希望の際には、当事務所のお問い合わせフォームよりお問い合わせください。オンライン(ZOOM)でのご相談にも積極的に対応しております。