とりで法律事務所(東京港区北青山)・ブログ

解決事例・(IT・WEB制作)契約書を含む文章での証拠が残っていないケースにおける業務委託報酬の回収

2024年04月02日 11:49

1 ご依頼の経緯

AさんはWEBデザイナーをしており、SNS上で知り合ったB社から、ホームページ制作に関するWEBデザインなどの業務の依頼を受託しました。


依頼を受ける際、SNS上でやり取りをしていた関係性もあって、業務委託契約書を作りませんでした。さらに、業務内容や報酬の定め方など契約上重要なことは全てオンライン面談の中で協議して決まりましたが、明確な業務範囲をメールや業務使用していたチャットツールといった文章で両者共有できていませんでした。

その後、Aさんが受託した業務を進めていくうちに、B社から追加業務(上記WEBデザインとは別種の作業)の依頼があり、その際も業務範囲のことや報酬のことを文章で明確にしておらず、Aさんとしては納品後、後々具体的な報酬額のことは協議して決めることになるだろうと思って、依頼を受けて業務を行いました。

しかし、納品後、当初依頼分の報酬はAさんに支払われましたが、Aさんが追加業務の依頼に関する報酬を請求しても、B社からはこの部分の報酬を支払われることなく、音信不通になってしまいました。


このような状況の下、困ったAさんは、弊所に相談に来られました。

2 当事務所の対応

B社宛に、追加業務について別途合意があること、または、商法512条の報酬請求権があることを理由として、追加業務を遂行したことについて報酬の支払いを求めて内容証明郵便を送付するも、B社代表者から、確認するとの旨のみ連絡があり、再度音信不通になりました。

そこで、民事訴訟を提起し、同内容の請求や主張を行いました。

民事訴訟提起の段階で、手持ちの証拠の兼ね合いだと、契約書を含めた客観的な証拠がなく、判決の見通しとしては追加業務にかかる合意の存在が否定されて請求が棄却される可能性が高いと考えられる事案でした。そして、民事訴訟提起後、B社は、予想通り、追加業務は当初契約の範囲に含まれる(かつ既に報酬は支払い済み)と主張してきたので、訴訟での主な争点は、追加業務に関する合意の存在となりました。

そのため、当時のチャットツールの記載などを丹念に精査して関連する部分を上記合意の存在を前提とするような証拠として提出する等、主張立証を行って訴訟対応しつつ、粘り強く期日や訴訟外での交渉を続けました。


半年ほど主張立証や交渉を行った結果、B社としても、少しずつ態度を軟化させ、請求額と比べて訴訟を継続することによる負担などもあってか、最終的には、B社がAさんに対して一定の報酬(請求額の35%程度)を支払うことで和解が成立しました。

3 解決

業務後の音信不通・報酬不払 → 一定の報酬支払による和解


言うまでもなく、業務の委託を受ける場合は、契約書を作成し、特に業務の内容・範囲や報酬の定め方を明確に書面に残しておくことがトラブル回避において重要ですが、取引の実態から契約書を作成することが難しい場面があります。そのような場合でも、発注書・発注請書のやりとりをする他、メールやSNSであっても合意内容を文章として残すなど、後々事実があったことを説明(証明)できるように合意を記録化・証拠化しておくという観点を持つようにしましょう。

なお、この点に関し、フリーランスの問題を取り扱った「フリーランスの法律相談実務」(第二東京弁護士会HP内)でも「委託業務に関する発注者・受託者間での協議結果を簡潔に書面にまとめ、注文の内容を確認する趣旨で、メール等で送付する方法である。書面の内容としては、仕様(委託業務の内容)を中心とし、最低限、上記で述べた委託料等の基本的な要素を列挙すること」(以上、引用)という方法を挙げています。


上記のような対策が難しい・対策講ずることができなかった場合であっても、上記事案のように粘り強く交渉をすることで、一定の報酬を回収することが可能なケースもあります。この点については、証拠検討の他、取引に関するあらゆる事情を精査して一定の見通しを持った上で交渉を進めていくことが重要になります。


当事務所では、上記のような各種業務委託にかかる報酬の回収について、ご相談やご依頼に対応しております。ご相談等希望される方は、弊所HPよりお問合せください。