とりで法律事務所(東京港区北青山)・ブログ

取引先との間に未回収の債権が生じた場合(少額訴訟とは)

2024年07月06日 16:16

取引先との間に未回収の債権が生じた場合(例えば、貴社が業務を行った結果得られるべき報酬が支払われないケースなど)、債権の金額が少額であると、回収に当たって弁護士に依頼することや民事訴訟を提起することで費用倒れの問題が生じるケースがあります。

そのため、少額債権の回収に当たっては「どこまでの措置を講ずるか」ということを、費用対効果やその他の目的(例えば、企業としての対応をハッキリと示す目的など)をあらかじめしっかりと検討した上で方針を立てることが重要です。

そして、少額債権の回収にかかる法的手段の一つとして、少額訴訟が挙げられます。

1 意義

少額訴訟は、簡易迅速に紛争を処理することを目的として設けられ、「60万円以下の金銭の支払を求める場合」に利用できる特別な民事訴訟手続です。

2 ポイント

少額訴訟を行うためには、下記の点がポイントになります。


①訴額が「60万円以下の金銭請求」に限定されること。

少額訴訟の対象は、業務委託料や貸金などの金銭の請求を内容請求の金額が60万円以下の場合に限定されるため、建物の明渡し、物の引渡し、登記等の請求を少額訴訟で行うことができません。


②原則1回の審理であること。

そのため、その期日に提出されない証拠や法廷にいない証人は取り調べることができません。したがって、証拠書類や証人はすべて事前に準備する必要がありますので、ご注意ください。

審理が1回であるということは、少額訴訟手続は、争いがそれほど複雑でなく、契約書などの証拠となる書類や証人をすぐに準備できるような場合に利用することを想定しているからです。


③被告が請求を認めても分割払、支払猶予、遅延損害金免除の判決をすることがあること。

裁判所が原告の請求をすべて認めても、被告に対して、分割払いや期限を定めて支払を命じる判決を出すことがあります。この定めに対して、原告は不服を申し立てることができません。


④控訴できないこと。

判決の結果に不服があっても控訴することはできませんが、1回だけ異議申立てをすることができます。この異議申立ての審理では、少額訴訟の判決をした裁判官が、その判決の当否を判断します。後の判決に対して不服申立てをすることはできません。

控訴できないということは、不利な判決を後に覆すことができないということですから、この点からも、事前の準備(訴状の記載内容の検討、証拠の収集・検討)が重要だと言えます。


⑤被告の異議申し立てにより通常訴訟に移行すること。

被告が通常訴訟での審理を希望した場合、申出があった時点で通常訴訟に移行します。そのため、少額訴訟を申し立てても、少額訴訟手続を利用できるとは限りません。また、被告が行方不明の場合も少額訴訟は通常訴訟に移行します。


⑥同一の簡易裁判所には、年間10回しか申立てができないこと。

3 手続

⑴少額訴訟の提起に必要なもの

①訴状(正本と副本)

少額訴訟を提起するためには、何よりまず訴状(正本と副本)を作成し、裁判所に郵送又は持参して提出する必要があります。訴状には当事者や請求内容(請求金額や請求の法的根拠、それを基礎づける事実の主張)などをもれなく記載する必要があります。

訴状の書き方については、裁判所HPに書式(雛型)がいくつかの類型に応じて用意されていますので、そちらを参照・利用されるとよいでしょう。

引用:民事訴訟・少額訴訟で使う書式 | 裁判所


②(当事者が法人の場合)

当事者の資格を証明するものとして、法人登記事項全部証明書(履歴事項証明書)が必要になります。


③証拠

債権の存在を証明できる契約書や借用書、念書などの証拠の写し(コピー)を、裁判所+被告の人数分の通数必要となり(例えば、被告が一人ならば、2通。)、これらを、訴状と共に提出します。

期日の際には、証拠の原本を持参する必要があります。


④費用関係

・訴訟手数料(収入印紙)

訴訟手数料は収入印紙で支払うことになります。少額訴訟を含む裁判手続きの費用は請求金金額によりますので、裁判所HPに掲載された手数料早見表などを確認します。

少額訴訟の場合、最大で6000円(請求金額:最大60万円)ということになります。(なお、手数料は通常訴訟の場合と同額です。)


・郵便切手

裁判所から当事者へ書面を送付するために必要な費用であり、各裁判所や当事者の人数によって具体的金額が異なります。事前に確認しておきましょう。

⑵ 訴状の提出から期日まで

訴状が提出されると、簡易裁判所で訴状に不備がないか審査をした後、第一回期日の指定を行います。また、裁判所から被告に訴状一式を送達します。

送達を受けた被告からは、被告の主張を記載した答弁書が裁判所・原告に送付されることになります。

期日においては、証人尋問も含め一回の期日で全て審理されることになります。また、裁判所から和解の打診もよくあり、和解案の検討をすることもあり得ます(和解をする場合、判決書ではなく和解調書を作成し、訴訟が終了します)。

和解が成立しない場合は、当該期日において、判決が出されることになります。

4 判決が出た後は、、、

少額訴訟において、(勝訴)判決が出た場合でも、被告から支払いがないのであれば、自動的に裁判所が強制執行をしてくれるわけではなく、債権者(原告)が強制執行の申立てをして差押え等をする必要があります。(これは、通常訴訟の場合も同様。)

少額訴訟の場合、通常の強制執行手続きに加えて「少額訴訟債権執行」という簡易な手続があり、その申立てをすることになります。

もっとも、強制執行の対象となる預金口座などの財産が判明していない場合、裁判所が自ら債務者の財産を調べてくれるということではありませんので、債務者の財産を勝訴した債権者が調査する(できればあらかじめ調査しておく)必要があります(※そのため、日ごろから取引先の債権管理・財産状況を可能な限り把握しておくことがとても重要です)。

財産調査に関する裁判所の制度としては、「財産開示手続」や「第三者からの情報取得手続」があり、債務者の財産が不明の場合、これらの手続の申立てをすることになります。また、弁護士に強制執行を依頼する場合には、弁護士会照会を利用することもできます(ただし、調査目的のみでの利用は不可)。

5 弁護士への依頼

少額訴訟を検討すべきケースの場合、弁護士費用によって費用倒れが生じることがよくあります。ですので、そのようなケースの場合には弁護士に対応を依頼すべきとまでは必ずしも言えません。

また、少額訴訟につき、具体的な手続は裁判所に問い合わせることなどして自社で対応することが可能といえるでしょう(手間暇はかかってしまいますが。)。

ただ、行動に先立ち、法律相談など弁護士と一緒に事案を検討することで費用対効果を含めた事案全体の見通しを立てることができる、という意味では、相談ベースで弁護士を活用することも考えられるでしょう。弊事務所でも相談に対応しております。