占有移転禁止の仮処分の概要・流れ(解説)
2026年08月09日 09:53
占有移転禁止の仮処分について
通常のケースは、そこまで行うことはないのですが、例えば、賃借人の他に人の出入りがある(悪質なケースだと故意に他人に占有させて妨害することも)など、占有が移転される恐れがある(→時間をかけて判決をとっても、占有が他人に移転されることによりこの判決をもとに強制執行ができなくなってしまうリスクがある)などの場合に、占有移転禁止の仮処分を検討することがあります。最近、その手続を行いましたので、備忘録を兼ねて紹介できればと思います。
1 占有移転禁止の仮処分とは?
占有移転禁止の仮処分は、民事保全手続の一つで、建物明渡訴訟の被告となる占有者を訴訟前に固定することで、勝訴判決後の強制執行に備えるための手続です。
2 占有移転禁止の仮処分の手続き
占有移転禁止の仮処分の手続は、大きく、⑴保全命令の手続と、保全命令発令後の、⑵保全の執行手続の二段階があり、それらを短い期間に進めていくことになります。
申立者の視点で、細分化すると、
⑴ ①占有移転禁止の仮処分の申し立て
②債権者面接
③担保決定
④立担保(→法務局に)
⑤仮処分決定の発令(以上が、保全命令の手続)
⑵ ⑥仮処分の執行の申立て
⑦仮処分の執行(債務者への送達)
というのが、大まかな流れです。
⑴ 保全命令の手続
① 占有移転禁止の仮処分の申し立て
申立書を含む、必要な書類を管轄裁判所(本案=建物明渡請求訴訟の管轄裁判所又は係争物=当該不動産の所在地を管轄する地方裁判所)に提出して行います。
(主な必要書類)
・申立書正本、各種目録(当事者目録・物件目録)
・印紙・郵券
・疎明書類(売買契約書・賃貸借契約書・振込履歴・通知書・報告書などの各種資料)の写し
・(当事者が法人の場合)当事者の資格証明書(3か月以内のもの)
・不動産登記事項証明書(1か月以内のもの)
・固定資産評価証明書
・訴訟委任状(代理人弁護士の場合)
保全命令申立書には、「申立ての趣旨」(求める仮処分の内容。=基本的には類型に応じてテンプレート)の他、「保全すべき権利又は権利関係」(=被保全権利)や「保全の必要性」を記載することになっています(民保法13条1項)。
・被保全権利(ここでは、建物明渡請求を行う権利)
被保全権利を特定し、その権利が発生していることを基礎づける事実について、記載しなければなりません。
また、疎明資料により事実の存在を疎明(証明まで厳密でなく、一応確からしいという推測を得させる程度の心証)することになります。
・保全の必要性
訴訟中に占有者が変わり強制執行ができなくなるおそれや著しく困難になるおそれがあること(=なぜ仮処分による保全が必要なのか)について記載することになります。
②債権者面接
裁判官面接は、上記書類提出により順次面接日を指定されるので、指定された面接に臨むことになります。面接日は、事案の緊急性にもよりますが、申立ての翌日や翌々日(それ以降)に指定されます。
提出した申立書や疎明資料をもとに、被保全権利や保全の必要性に関わる事実等について質疑応答することになります。
また、担保の金額に関する議論もなされます。
③担保決定
具体的な担保の金額については、被保全権利の疎明の程度や、処分によって債務者の受ける不利益の程度などを考慮して、裁判所が裁量により決定することになります。
いわゆる白拍子に、仮処分の担保基準の記載がありますので、一定の参考になるでしょう。
(ケースバイケースですが、例えば、債務者使用型の一般的な仮処分命令の場合で、住宅賃料基準だと、適正賃料の1~3か月分程度の金額とされます。)
④立担保
③担保決定で示された金額を法務局で供託します。担保提供は、3~7日の期限があるので、これを徒過しないよう早急に担保提供を行う必要があります(代理人の場合、受任時など早い段階で供託用の各委任状も依頼者に作成してもらっておく。)。
なお、建物明渡訴訟で勝訴判決が確定した場合等には、担保の取消しにより、供託した担保金を取戻すことになります。
⑤仮処分決定の発令
供託後、供託書正本等の資料を裁判所に提出して、仮処分決定の発令を受けます。
仮処分決定正本が債権者に送達されてから2週間以内に保全執行を行わなければなりません(民保法43条2項)。
※ この短い期間を過ぎると、当該保全命令によって保全執行はできなくなってしまうので、裁判所によって運用が異なる可能性がありますが、早い段階から、執行官(東京地裁では、霞が関の本庁ではなく、目黒の民事執行センターの執行官室)には、執行日の日程調整のために連絡して、執行日を事前に確保するのがよいです。
また、債務者に仮処分の存在を知られる前に実施する必要性が高いことから、債務者への送達日が執行日の前にならないよう、執行日が確定し次第、いわゆる遅らせの上申書を提出して、債務者送達日を調整することも重要です。
⑵ 保全の執行の手続
⑥仮処分の執行の申立て
裁判所から⑤占有移転禁止仮処分命令が発令されると、仮処分決定正本等をもって、裁判所の執行官に仮処分の執行の申立書を提出します。
申立書が受理された後、3万円程度の保管金(予納金)納めます。
担当の執行官と仮処分執行日時の打ち合わせをします。
また、執行補助者や開錠技術者の手配も必要になります(指定の業者がない場合、裁判所から紹介を受けることもあります。予納金のほか、業者への依頼料も見積もっておく必要があります。)。
⑦ 執行本番
執行当日は、執行官が、建物の中に入り(必要に応じて、開錠技術者が開錠作業を行う)、占有者や占有状況を調査し、占有移転禁止の仮処分命令が出ていることを記載した書面を、建物内の見えやすいところに貼り付け公示することになります。
⑧ その後
執行後は、執行官から仮処分調書の謄本が郵送されます。
その後、通常と同様、民事訴訟を提起し判決を得て、強制執行を行うことになります。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
以上が、占有移転禁止の仮処分の大まかな流れとなります。
不動産の問題・トラブル等で当事務所へのご相談・依頼を希望される方は、お問い合わせフォームよりお問い合わせください。